Bloody wolf
綱引きが始まって、参加者が熱気に包まれる。

みんなが必死で綱を引く中で、私だけが両手で掴んだ綱を緩く持ってた。

前後に綱が移動するのに合わせて、体を動かすものの力は全く入れてないので疲れない。


ん、これ楽チンだ。

綱引きを進めてくれた千里に感謝だな。


『オーエス、オーエス』

声を揃えて綱を引くみんなを冷めたままの私がぼんやりと見つめる。


「響、やる気出せ」

叫ぶな晴成。

「響ちゃ~ん、頑張れぇ~」

光希、煩い。

「響ちゃん、勝ったらご褒美にデートしようぜぇ」

瑠偉、そんなのいらない。


チラリと視線を向ければ、晴成が瑠偉のお尻を蹴飛ばしていた。

よし、よくやった晴成。


豪と秋道は、涼しい顔でこっちを見てた。

あの2人は静かで良いわ。


私が力を出さないまま、三回戦が終わる。

三回戦とも圧勝した赤組が、高い加点を受けることになったらしい。


みんなが興奮して騒ぐなかで、私だけがひっそりとしていた。

高校生になってまで、万歳をしなきゃいけない羞恥には耐えられなかったので、中平君と戸田君の影に隠れた。

熱狂冷めやらぬままに解散となった綱引き組。


一人テントに戻ろうとした私に、技とらしく足を引っ掻けようとした女の先輩がいた。

悪いけど、反射神経いいんだよね。

彼女の差し出した足を、そ知らぬ顔で踏みつける。


「キャッ、痛い」

睨まれても知らないし。

「ごめんね。そんな所に足があるなんて知らなかった」

棒読みでそう言った私を睨み付ける先輩。


早速始まったのか? と辟易しながら足を進める。

「待ちなさいよ」

なんて声が背中越しに聞こえたけど、もちろん立ち止まったりしない。


「響ちゃん、席まで送ってく」

中平君と戸田君が私の左右に並ぶと、叫んでいた先輩もその周囲で私を睨んでた人達も、たちまち大人しくなった。

これが、ウルフの力かなぁ。


中平君達に見えないように睨んでくる憎悪の視線に、力の差をみせつけておく必要があるのかなぁ、なんて思った。

ああいう人は、自分よりも強い相手には何もしてこないだろうからね。


やっぱり面倒なことになってきたなぁと思いつつ2人に送られて席へと戻った。
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