Bloody wolf
色々なクラブがパフォーマンスを繰り広げ、私の目的のクラブの番となる。

部員達がきびきびと厚手のビニールマットを敷き詰めていくのを見て、私の思惑通りに事は進みそうだとほくそ笑む。


案の定、空手部の主将が短い演舞を披露したあと、模擬戦の挑戦者が募られた。


「空手部と力試ししたいって人はいませんか? 安全面には気を付けて試合しますので挑戦者は挙手してください」

空手部のアナウンス担当者が高らかに宣言した。

だけど、ざわざわするだけで、手を上げる人はいない。


やった! チャンスと思いながら私はゆっくりと手を上げた。


「えっ? 響」

隣で千里の焦った声が聞こえる。


だけど、ごめんね。

挑戦者になりたいんだよね。


「おっと、挑戦者は女の子」

驚きに声を上げた。

そして、ざわめきは大きくなる。


面倒臭いと思いながらも立ち上がって質問する。

「挑戦相手は選べますか?」と。

「は、はい。それは可能です」

「じゃ、空手部で一番強い人がいいです」

弱い相手を倒しても意味がないから。


「そ、それなら主将になりますが、対格差もありますし・・・」

考えあぐねた司会者は主将に指示を仰ぐように彼を見た。

「良いだろう。俺が当てないようにすればいいだけだから。挑戦を受けるよ」

強面の顔で優しく笑ってくれるけど、舐めて掛かってると痛い目見るよ。


「ひ、響大丈夫なの?」

「問題ない。これ預かっといて」

首からハチマキを外して千里に預けると、私は設営されたマットへと歩いていく。


「勇気ある女の子の挑戦を、皆さん応援してあげてくださいね」

くだらないこと言わないでよね。

司会者をチラリと睨んで、マットの前で靴と靴下を脱いだ。

心配そうに見守る人達の中で、私が負けることに期待してる人間も大勢いた。

そして、そんな連中の中でウルフのメンバーだけが余裕の笑みを浮かべている。


足首と手首をグリグリ回して準備体操。

膝間接の屈伸運動も軽くした。


空手部の主将は私が準備できるまで、暖かい目で見守ってくれてる。

いい人そうなのに、ごめんね? 先に謝っておくね。


「五ポイント先取で良いですか?」

と聞けば、

「もちろん」

余裕の笑みで頷いた主将。

まさか、自分が負けるなん思ってもないんだろうなぁ。

悪いけど、こうやって向かい合っても、私より強いと思えないんだよね。
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