Bloody wolf
「本気で当てても良いですか?」

吹き飛ばすつもりでいるので、最初に了承を取る。


「ああ、良いぞ。胸を借りるつもりで掛かってこい」

「そ。でも、主将さんも本気で来ないと怪我しますよ」

戦意を瞳に宿して、ゆるりと口角を上げる。

私の纏う空気が変わったのを知るのは、きっと対面してる彼とウルフとメンバーだけだろう。


「・・・ハハハ、素人相手に本気にはな」

「・・・・・」

相手の力量の分からない奴なんて、大したこと無いんだよね。


目の前の男と、対格差がかなりあるからやりにくいけど負ける気はしなかった。


「では、始め」

審判をしてくれる空手部が四隅に散らばったタイミングを見計らって、主審が号令をかけた。


私は一気に距離を詰めて、先制の中段蹴りを放つ。

これが避けられるのは計算済み。

主将は一歩下がることで上手く交わした。


でもね、お腹ががら空きですよ。

主将は放ってきた突きを下段払いして、相手の懐に飛び込むと鳩尾に拳を捩じ込んだ。


「グハッ・・・」

苦し気な声を出して後ずさった主将はお腹を押さえて痛みを堪える。


「女だからって舐めてるから痛い目見るんですよ。本気を出した方がいいんじゃないですか?」

フフフと笑いながら相手が体制を整えるのを待つ。


まだまだ、仕留めてあげない。

貴方が本気で掛かってきてくれないと、倒しても意味無いんだよね。


私の言葉に顔を真っ赤にして睨み付けてきた主将は、怒りを瞳に宿してる。

プライドを刺激するような言い回しに本気モードになってくれたらしい。


「だったら本気でやらせてもらおう。怪我しても知らないからな」

「望むところです」

フッと口元を緩めて構える。


さっきまでとは違い勢いと重さのある突きを繰り出してくる主将。

私は受け身と受け流しで、それを無効化していく。


防戦一方に見えるそれは、私の作戦。

相手の癖を見極めるのに攻撃を受けていた。


息を飲んで運動場を見守る生徒達。

私が攻められてることに、ほくそ笑んでる女の子達がチラリと目に入る。

悪いけど、貴方達のお望みどおりにはならないんだよね。


「口ばかりで避けてばかりじゃないか」

主将は勝ち誇ったように笑う。


心配しなくても、その鼻っ柱を折ってあげますよ。
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