いつか、きっと。
瀬名くんが友也に向かって懸命に説明している。

誤解だとか、落ち着けとか、違うんだとか。

落ち着いたほうがいいのは瀬名くんだよ……。



「明日美……。俺がそう簡単に誤魔化されるとでも思っとる?」



え、なんで!?

私が瀬名くんから指輪をもらったと言ってるのに、平気なの?

私よりも瀬名くんを信じるってことなの。

だったらもう私にはどうしようもない。

もうここには居られない。



「なっ、なんね!私の気持ちなんてなんも分かっとらんくせに!私はね、今日は友也に会うつもりなんてこれっぽっちもなかったとやけんね。もううちの両親にも『友也と本当は付き合っとらんかった』て言うたし。瀬名くん、ごめんけど私今日は帰るけん……。月曜日に会社でね。バイバイ」



返事も聞かずさっさとこの場を立ち去る。

こんな時に友也を言い負かす技量が私にあれば良かったのに。

だけど今は無理だから、一旦引くしかない。

態勢を立て直さなければ、友也と向き合うことなんてできない。



「待てよ!まだ俺はお前になんも伝えられとらん」



当然だけど友也も黙って私を逃がすつもりはないらしい。


まあ、それもそうだろうけど。

だからといって簡単に捕まるのも嫌だ。



「もう聞きとうなかし、顔も見たくない。…………さようなら」



「明日美!」



背後から友也が私に呼び掛ける声が聞こえる。

だけど大人しく応じるつもりなんてない。

振り返らず歩みを進めていくのみ。



「おい、明日美って!行くなよ!」



「もう、着いてこんで!」



しつこいな。

もう、友也なんて知らないんだから!

早足から小走りへと、前に進むスピードを上げる。



歩道橋の階段を一気に駆け下りるつもりだった。

そしてバス停に向かって、どこ行きでもいいからとにかく来たバスに飛び乗ろうと思った。

少しでも友也から遠ざかるために。



それなのに…………。



階段の途中にあるステップまで来て、足と共に気持ちまでふっと切れてしまった。

友也、もう追いかけて来ていないの?

私このまま逃げ切ってしまっていいの?

友也に捕まりたいのか、そうでないのか……。

その答えを探るように首だけ振り返って友也を探した。



すぐそばまで来てるかと思ったけど、そうでもなかったのか、その姿をすぐには見つけられなかった。





< 292 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop