いつか、きっと。
「友也くんはお父さんから殴られる覚悟したみたいやったけど、お父さんは殴らんかったよ」



「ええっ!?」



思わず大声を出しかけて、慌てて口を閉じた。

なにそのドラマのワンシーンみたいな展開……。

そんなやり取りがあったなんて。



「お父さんは明日美だけじゃなく、友也くんにも幸せになってほしかとさ。お母さんも同じ気持ちでおるよ。だけんお父さんは、いくら"愛の鞭"でも暴力は好かんって…………」



「うぎゃっ!!痛ってぇぇぇぇ!!」



台所でお母さんとコソコソと内緒話をしながら、テーブルに料理を並べたりしていたその時。

隣の和室から突然響いてきた叫び声に耳を奪われた。



何事かと驚いて注目すると、うずくまって体を震わせ身悶えしている友也と、そばで中途半端に腰を浮かせオロオロしているお父さん。



「おっ、おい、友也?そんがん(いと)うしたつもりはなかぞ……。ちょっと大袈裟じゃなかか?」



お父さんも意味が分からないといった様子で、慌てふためいている。



「友也大丈夫!?ねえお父さん、一体なんしたと」



「いやぁ、激励の意味ば込めて、背中ば(はた)いたら……」



背中は今の友也にとって最大のウィークポイントだ。

私もさっき抱き付くつもりが勢い余って押し倒してしまったし。



「友也、大丈夫?」



「明日美、友也は背中どがんしたとか。ここに帰って来る前になんかあったとやろ?」



うん、確かにいろんな出来事があった。

だけど何から何まで全部話すつもりなかったし。

友也だって知られたくないよね、きっと。



「えっとあのね、お父さん……」



どう言えばいいのか、いいアイデアが浮かばないまま見切り発車で口を開いてしまった。

私の不注意で友也に怪我を負わせてしまったことは、正直に話すべきなんだろうけど。



「おじちゃん、不意打ちやったけん心の準備のできとらんで大騒ぎしてすんません。ちょっと背中ば怪我しただけやけん心配要らんですよ」



「怪我って、どがんして?」



私の口から真実を語らせたくなかったのか。

友也は『うっかり足を踏み外して階段を背中でずり落ちた』と説明した。



友也がそんなうっかりをやらかすとは思えないのに。

たまらず横から口を挟もうとしたけど、友也の目が『言うな』と言っているようで、黙っているしかなかった。



< 314 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop