白銀のカルマ
「あ、あのさ」

「………はい?」

「い、いつも、ありがとうね」

「……いえいえ。どういたしまして」

和巳がいてもいなくても必ず一回は食事を持ってきてくれて食べさせてくれたし、一人では困難な行為には必ず手を差し伸べてくれた。

近頃、悶々とすることは減ったが一つだけ俺にとって大きな疑問があった。

一日の大半を家事や雑用、看病に追われて練習時間を確保出来るのだろうか?

あまりにもそれが気になったのでこの日から壁に耳をあてピアノの旋律を確認するようになった。

「あ……」

昼食後から30分後その音は必ず聞こえてきた。

練習の方もおろそかにせずしっかりこなしていたのだ。

何事にも手を抜かず一生懸命打ち込む彼の姿に尊敬の念を抱く半面、見るに堪えない無様な生き方を選ぶだけの自分に肩を落とした。

暴力沙汰を起こしたことで公務員としての職と周りの信用を失い、自分のセクシャルが世間に露呈する羽目となった。

寛容な従兄(最近は見放されつつある)が経営するバーの店員として雇われるも、つい最近二度目の暴力事件を起こし現在に至る。

それだけではない。

以前から患っていた躁鬱症が悪化の一途を辿りますます薬が手放せなくなった。

医者は薬を飲めば絶対よくなると言ったが、どんどん薬に体を蝕まれているようにしか思えなかった。

特に自分の感情が制御できなくなる瞬間が一番怖い。

だから今ではそれを〝緩和″できれば良いと思っている。

周囲にこれ以上の〝迷惑″をかけなければ大したものだ。

よく考えてみるとこれまで俺は自らが招いた不始末で友人、身内、世間を巻き込み確実に不幸にしているので、これ以上周囲の足を引っ張ろうものなら身を切ることも厭わない心積もりだ。


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