白銀のカルマ
男娼には正直懲り懲りだったが、宅配を辞めるつもりはなく、次は手ごろな値段のデリヘル嬢を呼んで日々の鬱憤を晴らそうとした。

それは優一を負傷させた日と同じく、家には二人しかいなかった。

「んっ、んっ、んっ……」

男女が絡み合う厭らしい音と声。

寝ているのだろうか。

珍しく今日はピアノを練習をする音が聞こえない。

完全に優一の虜なのか誰といても彼のことばかり思い浮かべてしまい、デリヘルとの時間が今まで以上に価値のないものへと成り下がっていく感覚があった。

気持ちが晴れないままこの時間が終わるのをどうしても回避したかったため、酒でも飲んで気分を紛らわせることにした。

戸棚にある酒を取りに部屋を空けた数分の間、事件が起きた。

「いいじゃんーちょっとくらいさぁ。葉っぱもあるよー」

「やっ……、やめてください」

「お前、なにやってんだよ!!!」

目を離した数分の出来事だった。

そのデリヘル嬢は、自分の部屋の前を通りかかった優一を連れ込み、無理やり唇を奪うと大麻使用をせがんでいたのだ。

普段は自分もその類の人間だが、その時だけは偽善者ぶってデリヘル嬢を怒鳴りつけると衣服と金を放りつけ即刻追い出した。

「……大丈夫か!?」

おかしなことを他にも何かされていなかったか何度も念を押す正臣。

それはなかったと答えていたがよっぽど恐怖だったのだろう、ふいに抱き寄せた体は小刻みに震えていた。

「……助けにきてくれてありがとうございます……」


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