白銀のカルマ
 僕はあまりこの時のことを覚えていない。

覚えているとするならば、侮辱された従弟の名誉を守るため先生が母・幹枝と激しい口論になっていたこと、それを耳障りに感じた母が先生に暴力を加え、その場を無理やり収めたことだろうか。

「さぁ、帰るわよ!!」

「痛いっ……痛いよ。母さん……」

母に腕を掴まれ、無理やり引きずり出される自分。

あんな閉塞した空間に連れ戻されるのだけは絶対嫌だ。助けて。

僕は何度も何度も心の中でそう願った。

けれどどうすることも出来ないあの二人の悔しそうな顔と、先生の赤く腫れあがった頬が今でも瞼に焼き付いて離れない。

あの時に戻って自分が出来ることはおそらく何もないはずだが、それでも時間が戻せるならば戻したいほど僕は今でも自分の行いに激しく後悔している。

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