白銀のカルマ
自分が"良かれ"と思ってやったことが、必ずしも良い結果を招くとは限らない。

良い結果…それどころか、それが時に人の命を奪うことも。

「優一くん、来てくれたのね」

家に着くと、まず憔悴しきった先生と対面した。

本当は何か声をかけたかったが、何も伝える暇もなく仏壇が置かれた部屋に通された。

もの悲し気な目でこちらを見つめる正臣さんの遺影と目が合う。

僕がこの家から出ていってから約5カ月、正臣さんは突然命を絶った。

また最期の喧嘩の内容も聞かされることになった。

「………普段から口喧嘩はしてたんだけどね…私ね、ここのとこずっと言ってたの。〝何で生まれてきたの……?"って。
あんたなんか生まれてこなきゃよかった!!!″って。早く出ていけって急かして……。そしたらその後、こんなことに……」

僕はそれを聞いた瞬間、その場で膝から崩れ落ちた。

……僕のせいだ。

僕が母にあんな嘘なんてつかなければ。

あそこで馬鹿正直に全て自白しなければ。

先生と正臣さんの仲がこじれることもなかったし、命を落とすこともなかった。

正臣さんが亡くなった当日、確か夜中から朝方にかけて雪が降っていたが

薄手の上着だけを羽織り、小さな鞄1個しか持っていなかったと言う。

おそらく遠出をするつもりは、一切なかったのだろう。

それを考えると、本当に死ぬ気だったのかもしれない。

彼の悲劇的な生い立ちを併せて一緒に考えたら、涙が止まらなくなってしまった。

先生の横で、暫く一緒にすすり泣いた。

いつも気丈な先生だが、やはり心細くなっていたのか、この日「僕と一緒に寝たい」と懇願してきた。

だから僕は一晩中添い寝をすることにした。

正臣さんが亡くなったのは、僕の責任だと言っても過言ではない。

この真実と向き合い償っていかなければならない。

もしこのことが母にばれたとしても、もう構わない。

正直、母のご機嫌取りをするのはもう飽きた。

目の前の傷ついた人の心のケアをするのが今の僕の役目だ。
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