白銀のカルマ
「つっ………!」

口の中に血の味が広がる。

あまりの豹変ぶりに頭が混乱し、判断が鈍りそうになったが、今すぐここから逃げ出さなければならないと本能で悟った。

呼び止める声を無視し、一目散に外へ逃げた。

「………はぁっ、はぁっ、はぁ」

手足が千切れるほど腕を振って、前へ前へ進む。

ここまで来ればもう大丈夫だろう、と言う地点まで来て初めて後方を確認した。

案の定、背後には誰もいなかった。

家との距離が縮まるごとに、再びあの閉塞感と息苦しさを感じたが、身の安全だけは確実に保障される。

走る気力など正直残ってなかったが、ただ一刻も早く家に帰りたいという思いだけが前へと進む原動力となった。

家が見える所まで走り、後少しでたどり着くという時にけたたましい携帯の着信音が鳴り響いた。

「……はい」

『……あ。優一?母さんだけど今どこ?』

電話の主は母だった。しまった。自分が一日家を空けていたことがばれたか。

怒られると一瞬身構えたが、その声色はあまりにも淡々としたもので、思わず拍子抜けするほどだった。
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表紙・目次

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