白銀のカルマ
ソーダのような青空に浮かぶバニラアイスのような雲。

この晴天に舞い上がる煙草の煙は、本物の雲と見紛うほどだった。

真面目に将来を検討するつもりは一切なかったが、薄味でくそ不味い病院食を吐き出して
寿司やステーキを食べに行く無鉄砲な計画を企てる余裕だけはあり、吸い終わったら病院を
抜け出して行きたい所へ飛んでやろうかと悪だくみをしていた時だった。

「稲倉さん!何やっているんですか!!」

「あっ……」

不覚にも煙草を吸っているところを看護婦に目撃されてしまう。

当然、現場を押さえられたので言い逃れすることも出来ず、和巳だけでなく看護婦にもこってり絞られ
正臣はここのところ踏んだり蹴ったりの数日間を送った。

「……優一くん。本当にありがとうね」

「いえ。当然のことをしたまでです」

「………うちの〝アホ″をしっかり教育しないと。店を潰されかねないわ」

「………正臣さんでしたっけ」

「あんまり会わないのによく知ってるわね。正臣は私の従弟なの。学年は1つ下なんだけど私が早生まれだから
誕生日は3か月しか違わないの。だからほぼ同級生のようなもんなんだけどね」

「そうですか……。ところで正臣さんはどうして先生のお店で働いているんですか?」

当初は寡黙で冷静な印象が強かった正臣氏だったがあの出来事に出くわして以来、意外な一面を持ち合わせていることに
気づきとても驚いた。

ベールに包まれた人物像を探るうちに予想もしなかった正臣の意外な過去が和巳の口から語られた。

「………昔はあれでも公務員をやっていたのよ。でも暴力事件を起こしちゃってねぇ。そのおかげでバイセクシャルであることも職場にばれて辞めざるえなくなって。本人は辞める気はなかったんだけどやっぱり精神的に疲れちゃってね……」

確かに先生が経営するバーには様々な性的嗜好の人々が出入りしている。

LGBTからノン気までバラエティに富んだこの店の『Di.Ver』という名前は、『多様性=Diversity』という英単語が由来なのだと言う。

少々無法地帯な印象もあるが、"多様性"が認められているという点においては納得のいく店名だ。
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