幼な妻だって一生懸命なんです!
電話番号を長瀬さんに教えたその夜に、未登録の番号から電話がかかって来た。
時刻は午後10時。たぶん長瀬さんだろう。
しばらくスマホの画面に映し出された番号を眺めている。

「本当にかかって来た」

髪の毛を整え、正座をし、深呼吸をひとつ。
受話ボタンを押す。

「遅い」

相変わらずの無愛想な一言。

「どちら様ですか?」

「ふざけてるのか、俺だ」

「どこの俺様ですか?」

「おい!」

「初めてかかって来た番号なので」

「…ああ、そっか。悪い。長瀬だけど」

「わかってます」

「…」

「もしもし?」

長瀬さんが沈黙して数秒、プッと息を吹く音がした。

「ははは、やっぱり、あんた、おもしれーわ」

昼間、別れ際には「美波」と呼んだくせに「あんた」と呼ばれた。
なぜかそれが気に入らなかった。

「あんたではありません」

「えっ?」

「私には名前があります。もう忘れてしまったんですか?」

「ああ」

それから数秒の沈黙。
いやいや電話で沈黙はなしでしょう。

「長瀬さん?」

「お前だって」

「お前?あんたの次はお前ですか」

「いや、えっと、…み、なみ?」

噛んだ。そして疑問形だ。
笑いを噛み殺してスマホに耳を傾ける。
もしかしたら、顔をまた赤く染めているのかもしれない。

「何がおかしい」

「別になんでもないです」

笑いを堪えているのはバレていた。

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