幼な妻だって一生懸命なんです!
「すみません」

少しの間、沈黙になる。

「お前、家はどこ?」

「府中です」

「実家か?」

「はい」

両親、一つ下の弟と4人暮らしだ。啓介は大学に行っている。

「金曜日、LINEに住所送っておけ。迎えに行くから」

それはハードルが高過ぎる。

「待ち合わせでお願いします。それにLINEのIDを知りません」

「家に行くのはまずいのか」

「まずいです。まだ両親には話したくないので」

「...わかった」

あまり納得していないようだけれど駅で待ち合わせすることになり、電話を切った。

電話が終わるのを見計らったように啓介が部屋に入って来る。

「だからノックしてよ」

「誰?」

「えっ?」

「電話」

「会社の人」

「まずいとか、親に知られたくないとか、また変なやつなんじゃないの?物売られたり」

「長瀬さんは立派な人だよ」

「ふーん、で、何者?」

「会社の...」

上司?先輩?私達の間にはハッキリした名称がない。
疑い深い視線を送ってくる啓介に思わず言ってしまった。

「プロポーズされたの!」

「はぁぁぁ?付き合ってどれくらい経つんだよ、一言も聞いてねえぞ」

年子だからか、啓介は私を姉と思ってない。
一度だってお姉ちゃんと呼ばれた事がない。
物心ついた頃から、私を美波と呼んでいる。
こうして上からものを言うのもその辺の影響だろう。

「昨日付き合ったばかり?」

「なんだそれ」

ハァと大きなため息と一緒に肩を落とした。

「あのさ、美波は免疫がないんだからしっかりしろよ。高校の時だって専門の時だって変な男ばかりに言い寄られてたじゃん」

そうだ。
高校の時は先輩に告白されたけれど、その先輩には複数の彼女がいた。
同じ高校に通っていた啓介がそのことを知っていて、告白されたと言ったらすぐに断ってこいと怒られたのだ。

専門の時は仲良かった男子だと思っていたのに、お金にだらしなく、いつの間にかトータル数万円を貸していた。細かい金額を貸すので貸した感覚がなかったのだが、バイトをしているのに貧乏だと嘆いたらある時から「お小遣い帳をつけろ」と啓介に言われ細かくつけたらその男子に貸している金額が膨大になっていたことが判明した。
それまで気がつかない私を啓介は呆れていた。

「付き合って間もない男がすぐにプロポーズするか、普通」

「付き合う前にプロポーズされた」

あ、バカバカ私。

「はぁぁぁ?!」

啓介の顔が険しくなる。
ありのままをなぜ啓介に言ったのか。


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