幼な妻だって一生懸命なんです!
「美波、もうちょっとしっかりしろよ。まだ21歳だろ。結婚とか早くないか?」
「そうだけど…」
そうだけど、長瀬さんだからそれも現実にありなんじゃないかと思ってしまう。
たった一日で自分の気持ちが大きく変わっている。
そもそも彼の存在は入社当時から知っていた。
自分には関係ない雲の上の人。
初めから彼が恋愛対象になるなんて無いと思っていた。
なのに今は期待し始めている。
長瀬さんの言葉をまるまる信じられてはいないけれど、彼が私に対して放つ言葉は嘘に聞こえない。
それに普段仕事中に見せる姿より、口が悪く気も使わない話し方の方が人間らしいと言うか、私は好きだ。
「うん、好き」
「はっ?」
「あ、や、なんでもない」
考えていることをつい口に出してしまい、啓介に怪訝な顔をされる。
「とにかくしっかりしろ」
昔から弟のくせに威張り口調だ。
高校時代の友達はよく知っている。
何かにつけて私にダメ出しをするのだ。
「しっかりしてます」
「どこがだよ」
ため息をつきながら渡した充電器を持って部屋を出て行った。
しっかりした弟だとは認めるけれど、啓介は長瀬さんを知らない。
「何も知らないくせに」
そうつぶやいた言葉が自分に跳ね返ってくる。
私だって長瀬さんの何を知ってるの?
仕事は出来て、何をするにもそつがない。
見た目は言うまでもなくカッコいい。
素直に物が言えない、ちょっと面倒くさい人だってことは少しずつわかってきた。
そんな一面を見せてくれるのは自分にだけだと、この時は舞い上がっていたんだと思う。
まだ彼のことを何も知らなかったくせに。