幼な妻だって一生懸命なんです!


食事が終わり普段なら私の住む街へと送り届けてくれる。
今夜は離れがたい。
そう思っているのは私だけではないようだった。
お店を出るとタクシーが待っていた。

「うちに、来る?」

繋いだ手に力が入る。
長瀬さんの気持ちが、そこから伝わってくるかのように熱い。
彼の顔をまともに見ることができないまま、コクンと頷いた。
それを合図のように手を引かれ、タクシーに乗った。
長瀬さんは「佃島までお願いします、高速を使ってもらって構いません」と告げた。
高速を使ったほうがいいのかどうかなんて、都内の交通事情に疎い私は、わからずお任せするしかなかった。

道路事情よりも今はこれから私たちはどうなるのか、そればかりが気になって仕方がない。
長瀬さんを意識しすぎて、手のひらに汗をかく。
タクシーに乗る時に離された手は、再び長瀬さんの手のひらに包まれる。
触れられているのは手の甲で良かったとどうでもいいことを考えた。
意識を長瀬さんから離しておかないと、どうにかなりそうなくらい緊張しているのだ。

長瀬さんに部屋に行くということは、そういうことになるんだよね。
ブラとショーツの柄は、ちゃんとお揃いだったっけ?
キャミの色はベージュじゃないよな。

「緊張するな、取って食ったりしない」

長瀬さんは目尻を下げながらいう。
これまでキスすらしていない。
食事して手を繋ぐのが精一杯だ。
経験のない私だって、それ以上のことをコミックや恋愛小説で知っている。
つもりだけれど、実践したことがないので、どのタイミングでどうしたらいいのか全く見当がつかないのだ。

「…このまま帰るか?」

黙ったまま無口な私を見て迷っていると思われてしまったようだ。

「行きます!行きたいです!!」

食い気味に返事をすると、安心したようにそっと笑った。
タイミングがわからずにいただけで、私だって長瀬さんとどうにかなりたいと思う気持ちはあった。

帰りたくない、触れられたい、もっと求められたい。

少し怖いのは、想像がつかないからだけで、それ以上に長瀬さんに求められている喜びの方が大きい。


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