幼な妻だって一生懸命なんです!
「わ、すみません」
焦りながらくるっと長瀬さんに向き直り謝りを入れる。
「ハウスキーパーがまた来てくれるから問題ない」
そんなことはなんでもないというようなそぶりで、ハウスキーパーが来るという。
そもそもこんな高価そうなタワーマンションにうちの給料で住めるのか。
「あの…前から少し疑問があるのですが、長瀬さんはお金持ちなんですか?」
「金持ちかどうか聞かれたら、そっちなのかもしれないが、ここはジイさんの持ち物だ」
そういえばご家族は両親と兄のような存在がいて、一人っ子。
大学時代から高山百貨店でバイトをしていて、そのまま高山百貨店に就職したとは聞いていた。
はっきりとは聞いていないけれど、これってもしかして…
「長瀬さんって高山百貨店と何か関係があるんですか?」
「あ?」
「すみません、コネ入社を疑っているわけじゃないんですが…」
「まぁ、コネと言えばコネか」
「へっ?」
「何、素っ頓狂な顔してるんだ」
思いがけない話に思考回路がストップしているんです。
このまま立ち話を続けるつもりはないらしく、長瀬さんはジャケットを脱ぎながらダイニングへと歩いていく。郵便ポストに入っていたものだろうか、ダイニングテーブルに散らかっていることにはなんのお構いもなく椅子にパサっとジャケットを置くと、腕まくりをしてミネラルウォーターを電気ケトルに注ぎスイッチを入れる。
「コーヒー駄目なんだよな」
「飲めます。ミルクたっぷりなら」
「紅茶がある…はずだ」
棚や冷蔵庫、引き出しを開けては閉め探しているのは紅茶のようだ。
だからケトルでお湯を沸かし始めたのか。
キッチンに行くとケトルが90度と表示され、湧いた合図がした。
「紅茶を入れていただけるなら、100度が最適ですよ」
ケトルの温度を上げて、再度スイッチを入れる。
「そうなのか」
まだごそごそと探している様子を見て、私もキッチン周りを見渡す。
生活感のないシンク、食器棚はディスプレイされたようにお皿がきれいに揃えられたいた。
「家で食事は?」
「しないな」
予想していた返事が来て、ホッとしている。
このキッチンを使った女性がいたのかもしれないと考えたからだ。
ふと目についたののは、食器棚の透明のガラスの中から見える、見覚えのある包装紙に包まれた小さな箱。