幼な妻だって一生懸命なんです!

長瀬さんの唇が私のそれと重なる。
高校時代に付き合った何人も彼女がいた先輩にファーストキスを捧げた。
それ以来のキス。
あの時のものと似ても似つかないキス。

離れそうで離れず、離れそうになると求め合う唇。
無意識で開いた唇に、彼が容赦無く口内に舌をすべりこます。

「ん、」

自分の知らない声が、口から漏れた。
ウソ、今の私の声?
一瞬、我に帰る余裕を彼の情熱で塞がれる。
彼の手がシャツの裾から忍び込む。
この先に起こる事に期待と不安で胸が熱くなる。

その時、彼の手の動きがピタっと止まった。
振動が彼の体を伝わって私にも届く。
彼のスマホが着信を知らせているのだ。
止まない振動に、集中力が途絶える。

「急ぎかも」

少し掠れた声になってしまったのは、彼の唇に翻弄された余韻。
触れるか触れない彼の唇にもまだ熱がこもっている。

「いい」

彼もまた囁くようにつぶやく。
相手も諦めたのか、振動が止まった。
それを合図にまた唇が奪われる。

しかし、振動は再び響き始めた。
彼の唇の動きが止まり、唇が離れていった。


「チッ」

普段のスマートで人当たりの良い姿からは想像もつかないような舌打ちが聞こえ、唇が離れた代わりにというように、私の手を取り指を絡める。
逆の手でズボンの後ろポケットからスマホを出すし、画面を見るや否や彼の手は解かれた。

「悪い、社長からだ」

先ほどの話の内容から、社長と長瀬さんは親族である。
個人的に電話をかけてきても不思議はない。

しかし彼は緊張した面持ちで画面のボタンを押すと私に背を向けるように窓際に立った。

「もしもし」

さっきと違う声色。
きっと仕事モードなのだろう。

「はい、自宅にいます。ええ、はい…」


相手の話し声は聞こえない。
ええ、はい、いいえ…そんな言葉を繰り返している声に、側にいるのを遠慮しようと考えたが、人の家をフラフラする訳にもいかず、視界に入ったキッチンへと足を向けた。
窓ガラスに私の行動が映ったのか、長瀬さんが私の腕を後ろから掴む。

「キャ!」

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