幼な妻だって一生懸命なんです!
ホテルの控え室。
白無垢姿の自分が鏡に映る。
慌ただしさで余計なことは考える暇もなくここまで来た。
体の関係は結ばれぬまま夫婦になることの不安が、急に押し寄せて来る。
白無垢を着ることは、相手の家の色に染まるように真っ白のまま嫁ぐという意味があると、準備中にウェディングプランナーが話してくれた。
これが本来の花嫁姿じゃない。と自分に言い聞かせる。
ここまで何度かそういう機会はあった。
新居はダイニングキッチンとリビングに寝室。その他に四部屋もある長瀬さんのマンションに住むことになった。
引越しの日は啓介も手伝ってくれて、その夜は三人で一緒に食事をし、私は片付けも兼ねて新居に泊まることになっていた。
なのに…
お礼をすると長瀬さんは啓介と食事の後にまた飲みに行ってしまった。
一人部屋に残され荷物の片付けが一段落すると、無性に涙が出てきた。
「私に魅力がない?」
ソファに座り、眼下に広がる都会の灯りの中、取り残されたような気持ちになる。
灯りが涙で滲む。涙が止まらなく泣き疲れると、いつの間にか寝てしまったのだ。
朝、目が覚めると寝室に運ばれていた。
慌てて起きてリビングに行くとソファに長瀬さんが横たわっている。
物音を立てても起きないということは、ぐっすりと眠っているのだろう。
その間にシャワーも浴びずに寝てしまった私は、すぐに浴室に駆け込んだ。
使った後があるのは、長瀬さんは帰ってきてからシャワーを浴びたんだろう。
シャワーも浴びていない私をベッドまで運んだんだ。
恥ずかしい。
浴室には昨夜、彼が着ていた洋服が脱ぎ捨てられ洗濯カゴに入っていたのを見ると、急に生活感が増す。
私たち、結婚、するんだ。
迷っているわけじゃない、長瀬さんが好きだ。
ずっと一緒にいたい。
ただ、まだ彼のものになっていないことがすごく不安なのだ。