幼な妻だって一生懸命なんです!
医務室の扉が勢い良く開く音がした。
音のする方へと反射的に顔を向ける。
要さんが慌てて入って来た。
接客する時は必ずアップにしている前髪が、バラバラと落ちて額に掛かっている。
ジャケットを左手に持ち、ネクタイを緩めながら歪んだ笑顔を浮かべた要さんがベッドへと大股で近づいて来た。
ベッドの上にバサッとジャケットを置くと同時に、上半身だけ起き上がった私をギュッと抱きしめた。
「美波」
辛そうな声が耳元に響く。
「…か、なめさん?」
「はぁ…」
走って来たのだろうか?鼓動が早い。汗もかいている。
「汗…スゴい」
「あ、ごめん」
急に体を離した。
「いえ、そういうんじゃなくて…心配させてごめんなさい」
「大丈夫か?」
「はい。もう大丈夫です」
要さんの顔を見たら、さっきまで渦巻いていた黒い塊は陰を潜めた。
要さんが私の顔色を確かめて、
「よかった…」
と呟くと、もう一度、私を抱きしめる。
さっきよりも強く。
このぬくもりが陰を潜めた黒い塊を溶かしてくれるはず。
その時はそう思えていた。
けれど…
『ねぇ…私の息子、要に似てない?』
由香さんの言葉は衝撃が薄くなるどころか、時間を増すごとに黒い塊となって大きく膨らんで行くのだった。