幼な妻だって一生懸命なんです!
寝不足と泣き腫らした顔は鏡を見てげんなりとしたけれど、たっぷりの氷水で冷やし、まぶたは化粧水でパッティングした。
一時間後にはなんとか外に出られる顔にはなった。
気合いを入れ、私は出勤したのだった。
その日も大忙しの一日で、仕事になると余計なことを考えずに済んだ。
それはそれでありがたい。
お昼休憩もまともに取れず、閉店を迎えてしまうほどだった。
閉店間際、店長から用事を言い渡される。
「長瀬さん、これ、社長室から注文があったんだけど、持っていってもらえないかな」
「…はい?」
クリスマス限定の紅茶セットが二つ、手提げ袋に用意されている。
「さっき秘書室から連絡があって、明日、客先に持って行くそうなんだ」
「社長室へ、私がですか?」
こうした注文はいつも秘書の方が取りに来ている。
「そのまま今日は上がっていいから」
普通、こんな小娘が社長室なんて行けるはずもなかった。
しかし、現在は親戚でもある。その誼みからだろう。
「…わかりました」
仕事と割り切るべきか、親戚という立場で行くべきか。
深く考えても仕方ない、とりあえず、制服のまま社長室へと向かう。
社長室って何階だっけ?
バックヤードから通じるエレベーターにタイミングよく飛び乗りボタンを押す…つもりが社長室が何階かすぐに分からず上を見上げる。
表示板に最上階に小さく社長室と書いてあるのを見つけ「8」のボタンを押した。
社長室が何階かも知らない私が、こんなお使いごとで行ってもいいのかしら。
ポーンと到着する音と一緒に扉が開く。
エレベーターを降りたところから、他のフロアにはないカーペットが敷いてあった。
「わー、コツコツ言わない」
販売フロアではない感触が面白い。
あたりを見渡すと誰もいない。
足音が出ない廊下が珍しく飛んでみたり、小走りになってみたり。
背後から、人の気配がした。
「コホン」
「はっ!」
誰もいないと思っていたのに、すぐそばに人が立っていた。
「すみません」
さっき通り過ぎた階段の踊り場から出て来たようだ。
影が見えたのは思い過ごしではなかった。
背が高いその人物と目が合う。