幼な妻だって一生懸命なんです!



「部外者は立ち入り禁止だよ」

物腰が和らいが、目の鋭さは見覚えがある。
二重まぶたのくりっとした丸い目が印象的な彼は、スーツの着こなし方や話し方だけで仕事ができるイメージを与える。

「聞こえてる?」

「は、はい、すみません」

会釈をして、その場を立ち去ろうとしたけれど、社長室の場所がわからず、そのままキョロキョロとしてしまう。廊下には同じような扉がずらっと並んでいるのだ。
その様子を黙って見ていた彼が「あれ?」と私の顔を見て彼が反応した。

「君、もしかしてSweet Time Teaの…」

社長の秘書の方だったのか。

「はい、これをお届けに参りました」

内心助かったとホッとして、商品を渡そうとしたが、彼は手に持った袋と私の顔と、最後には左胸のネームプレートを確認した。

「ついておいで」

ここで渡せれば終わりだと思ったのに、社長室に連れていかれるようだ。
緩んだ気持ちは、また緊張し始めた。

「あの、」

「ん?」

「ここでお渡ししてはダメですか?わざわざ社長室まで」

「せっかくだから、顔を見せてあげなよ」

「えっ?」

「君も大変だね」

彼は心底可哀想にという顔をした。
社長室にお使いすることが大変と言われたのだと、その時は思っていた。

社長室とプレートが貼ってある扉の前まで来るとノックをした。
彼は返事を待たず、中へと入って行く。
良いのかな?と思いながらも、彼の後を小走りでついていった。

両サイドに事務机がひとつずつ。
向かって左側の席は不在、右側の席にいた秘書と思われる女性は立ち上がり、男性が向かっていく磨りガラスの扉へと先回りしようしたが彼が手を挙げ制した。その場に立ち止まる女性。
それだけの動作なのに、立ち居振る舞いが綺麗だ。
その様子を見ただけで、彼が只者ではないとわかる。
やはり自分だけが場違いに思える。

私、誰について来てしまったんだろうか?
女性は彼と私が通り過ぎるまで、丁寧に頭を下げていたので彼女の横を通り過ぎるとき、私も会釈する。

磨りガラスの扉も、先ほどと同じようにノックをしただけで返事も待たずに扉を開けた。
席に座って書類から視線を上げた社長と目が合った。


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