幼な妻だって一生懸命なんです!


私の顔を見るとかけていた老眼鏡をすぐに取って、嬉しそうに立ち上がる。

「美波ちゃん、よく来てくれたね、座って、座って」

応接セットに腰を下ろすように促された。
その前に私は結婚式に参列して頂いたお礼を述べる。

「お式ではありがとございました」

「それはこの間、ちゃんとお礼に来てくれたじゃないか」

結婚式の翌日、要さんと親戚宅に挨拶に回ったことを言っているのだろう。
その後、きちんと会うのは初めてだ。
とは言っても、まだ三日前のこと。

「さ、さ、座って」

プライベートでは、今までより更に気さくに話しかけてくれるようになった。

「俺の存在は無視ですか」

進められていないのに、私を社長室まで連れてきてくれた彼は隣にドサっと音を立てて座った。


「ああ、こんなところに愚息がいたか」


愚息?!

「愚息で申し訳ありませんね」


「なんで、お前が美波ちゃんと一緒なんだ」


「そこで迷子になっていました」

この会話から、彼は社長の、息子?
つまり今まで会えなかった要さんの兄貴的存在という従兄だ。


「あの、えっと」

「ああ、美波ちゃんに紹介できていなかったね。息子の(いつき)

やっぱり。

「美波です。初めまして」


「結婚式に行けなくて申し訳なかったね」


「美波ちゃんと要が結婚することになったら、拗ねちゃってね、式にも出ないって海外から帰ってこなかったんだよ、ほんとに子供なんだから」


「そんな訳ないでしょ。あなたがあっちでの仕事を丸ごと押し付けて来たんじゃないですか」


「自分の無能を人のせいにして、嫌だね」


「えっと、あの」


この会話に困っていると「失礼します」と先ほどの女性がトレイにポットとティーカップを持ってやって来た。
彼女がテーブルに置いたティーカップをじっと見る。
中身が空っぽだ。
ああ、ポットに茶葉が入っているのか。
さっきから音を立てているのは電子ポット。

「紅茶、私が入れましょうか?」

彼女がポットに手をかけようとした隣に立つ。

「ありがとうございます」

笑顔で快く受け入れてくれた。
社長秘書だけれど、話しやすさが彼女にはある。
それはさっきこそっと耳打ちしてくれた一言でわかった。
社長と樹さんが言い合いになっている姿を困って見ている私に「いつものことですから」と教えてくれたのだ。

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