極上旦那様ととろ甘契約結婚
詳細を覚えていなくても母が死んだのもお葬式をしたのも覚えている。だから不安じゃない。でも自分の部屋にある物でいつ買ったのか、どんな理由で買ったのか、そもそも自分は買ったのか、それすら分からないのが怖いのだ。特別な思い入れがある物なら捨てられない。でも、嫌な思い出があるのに捨て忘れてただけだったら?ストーカーにプレゼントされたものだとしたら?

すとん、と抜け落ちた記憶はどんどん不安を大きくしてしまうから私は蓋をして生きてきた。思い出せたとしても良い記憶とは限らないと嘯いて生きてきた。

人間関係だってそうだ。そもそも頼らなければがっかりする事も悲しくなる事もないのだと、意地張って自分一人で踏ん張って生きてきた。そして不安な自分を弱い奴だと叱咤してきたのだ。

「もうホント、今日は気付いてばっかり……」

横で静かに待ってくれる修吾さんがいるのに。どんどん頭の中で解けていく感情と整理のつかない気持ちをごまかすように俯いて呟いたら、ふわりと抱きしめられた。

「し、しゅう、ご……さん?」

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