夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
 そして金曜日がやって来た。
 部長と共に、パーティーが行われるホテルへ向かう。
 どうやら堅苦しい挨拶の前に歓談の時間が設けられているらしく、既に料理を楽しんでいる人々も少なくなかった。

「いやぁ、すごいなぁ。こんな場所、結婚式以外じゃ来たことないよ」
「……私もです」

 なんだか呑気な部長は、普段のちょっとくたびれた雰囲気がすっきりスマートに変わっている。

(おしゃれすると印象が変わるって言うけど、本当なのかも)

 そう思いながら自分の身体をそっと見下ろした。
 なるべく派手にならないよう、どちらかと言えば地味なドレスである。
 そもそもこんな格好を、それこそ結婚式以外でする機会が来るとは思っていなかった。

(私も少しはまともに見られるといいんだけど)

 ふんわりと先日の友人たちとの会話を思い出す。
 ――結婚。
 意識したことがないわけではなかったけれど、私には縁の遠いもの。

「袖川さん。僕はあちこち挨拶周りがあるから離れるけど、一人で大丈夫そう?」
「はい。……私はご一緒しなくていいんですか?」
「いいよいいよ。せっかくパーティーなのに、こんなおじさんと仕事の話をして回ってもつまんないでしょ」
「ですが……」
「あ、僕のローストビーフだけ確保しておいてくれる?」
「……分かりました」

 どうしてこんなに自由な人が部長になれたのか、疑問に思うくらい緩い。
 けれど、それが人望に繋がっていることを知っているだけに、突っ込むのをやめておいた。
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