夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「俺はなにもしなくていいんだな?」
「はい」
なにかしてもらわなければならないほど、あの短い出来事にトラウマを植え付けられたわけではない。
でも、もう少しだけわがままを言わせてもらう。
「私を抱き締めて、甘やかしてくれるだけでいいです」
「なるほど?」
ぎゅう、と春臣さんが抱き締めてくれる。
なんとなくぎこちない手つきに笑ってしまった。
意識するとうまく動けなくなるのかはわからないけれど、急によそよそしくて面白い。
「なんで笑ってる?」
「だって、おかしくて」
私もぎゅうっと春臣さんを抱き締めた。
思えば、この人がパーティーの場で私を助けてくれたのは二度目である。
一度目は進さんだというのが、今となっては笑い話にしかならないけれど。
「私、春臣さんのことが好きです」
「……どうしたんだ、急に」