あの日の空にまた会えるまで。
「ーーー…い」
「…おい」
「葵っ!」
ハッとして顔を上げた。
「な、なに?」
「なにって…あんたずっと上の空だよ」
「…ごめん」
真央が小さく溜め息を吐いた。私の顔色を伺うような、心配した表情が浮かんだのが見えて私は視線を逸らした。
分かっている。
上の空な自分のことは、自分が一番理解している。
課題をこなしていた真央が持っていたペンを置いた。カタンと静かに音が鳴る。
「……葵、奏先輩と再会してからずっとそれだよ」
「……」
奏先輩と6年の時を超えて前触れなく突然に再会してしまったあの日から、私の頭の中はそれに支配されてしまった。何をしていても頭に入らない。忘れよう、あれは悪い夢だ、そうは思っていてもやはり一瞬にしてあの人の姿が映し出される。
奏先輩のことで、頭がいっぱいになって、自分でもどうすればいいのか分からない。
「あれから会ってないの?」
「……見てない」
あの日の次の日、悠斗から話を聞いた真央が春ちゃんに数々の質問をした。その中で分かったのは、奏先輩は同じ県内だけど遠く離れた大学から交換大学生として此処に来たらしい。奏先輩は3年生なため関わることはそもそも無く、春ちゃんも奏先輩のことは知らなかったようで、春ちゃんも奏先輩の情報収集に少し手間取ったらしい。
つまりは奏先輩は同じ校内にいるということだ。
しかしあれから一週間が過ぎようとしていても、奏先輩の姿を一切この目に写すことはなかった。
もしかしたら向こうが避けているのかもしれないけれど、そこはやはり1年生と3年生の違いなのだろう。滅多なことがない限りこの広い構内でバッタリと出逢うことは数少ない。真央でさえ約束しないと滅多に顔を合わせないのだ。会いに行く意思を持たなければ顔を合わせることができないほどに広い構内で、更には講義も学科も何もかも違う3年生の特定の人と出くわすことなんて無いに等しい。
「葵はさ、会いたいの?会いたくないの?」
真央のこの質問には答えられなかった。
自分でも分からなかったから。
同じ構内にいると知ってから周りを常に見渡しては奏先輩を探してしまう自分がいるけれど、例えば本当に会ってしまったとして自分はどうするのだろうか。