あの日の空にまた会えるまで。
「何も考えなくていい。なんだったら無視したっていいんだよ。もう存在自体忘れましたって突きつけてやればいい」
「……蓮先輩」
そう言って、組んでいた両手を離して右肘を立てる。
「それだけのことを、葵ちゃんはあいつにされたんだから」
優しげな表情の中に浮かぶのはきっと、あの頃の私と奏先輩なんだろう。奏先輩の背中をついて回る私と、それを笑って迎えてくれる奏先輩。蓮先輩は、第三者としてそれを近くで見ていた。
「いつかは顔を合わせるかもしれないけれど、その時葵ちゃんがどんな行動を取るのかなんて、今は考えなくてもいいんだよ」
「……」
「葵ちゃんが気に病むことじゃない。あいつを前にして体がどう動くのか、その時にきっと分かる」
「……」
「その時、自ずと答えは出る」
だから、焦らなくても大丈夫ーーー
優しく紡がれる言葉たちに、ほんの少しだけ体の力が抜けたような感覚を感じた。
あの人を前にした時、自分がどんな反応をし、どういった行動を起こすのか。本人である自分ですら分からないことなのだから、今考えなくてもいいんだと、蓮先輩は言ってくれている。
実際に目の前にした時に自分の中の答えに気付くんだ、と。
逃げたっていい、避けたっていい。罵ったっていい。どれも自分自身が行動した、紛れもない自分の中の答えなのだから。
「……まぁ、俺がそう言っても葵ちゃんは変わらず悩みまくるんだろうけど」
最後に笑った蓮先輩に私も笑みを返した。