擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
亜里沙が断ってもふたりは食い下がってくる。今日はこのためだけにランチに加わったのだろう。必死な気持ちが伝わってくる。
恵梨香も困惑顔で二人を見ていて、おそらく彼女たちの目的を知らなかったのだろう。小声で亜里沙に謝罪してきた。
「ふたりとも、やめなよ。亜里沙が困ってるじゃない」
「なに言ってんの。恵梨香だって、ついさっきなくなったら最高だって言ったじゃない」
ふたりは余程嫌な思いをしているみたいだ。語気が荒くて、非常にまずい雰囲気だ。
「そりゃあたしかにお茶当番は困ることもあるし、男子社員も嫌な奴いて腹立つけどさ。数日に一度のことだし、まあ我慢できないことはないよ」
恵梨香がなだめようとするも、彼女たちは無くしたいの一点張りである。
「あの、私から香坂社長に話す前に、まずは男子社員に意識を変えてもらうのが先だと思うんです。無くしてしまったら、同じ人ばかりがお茶を入れることになりかねませんし。そうしたら全体のバランスが崩れます」
気持ちを逆なでしないように慎重に言葉を選んで言ったつもりだ。
けれどもふたりは納得していない様子で、不機嫌に口をとがらせている。
「なによ! ひと言社長にお願いしくれればいいだけなのに、あなたって案外冷たいのね!」
「さすが、冷徹って言われる社長の妻になる人ね。同類だわ」