擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 ──彼に『社員に頼まれごとをされる』と相談するべきなのかな。

 いっときのことでも、断ることで〝冷たい人〟と陰口をたたかれるのが少し辛い。

 女子社員たちに無視されることまで発展しないといいのだけれど、佐々木と有田の反応を思い返せばやはり不安になる。

 そんなふうに思うのは、学生時代にほんの些細なことから女子全員に無視されてしまった経験があるから。

 体育の授業でペアを組むのも、調べ物で班を組むのも、無視されていたためにひとりになって。

 先生に無理に入れてもらったけど話に加えてもらえずに、結局ひとりぼっちと変わらなかった。

 大人の彼女たちには分別があると思いたいけれど、こうして静かな部屋にひとりでいると、考えるほどにネガティブな方向へいき、どんどん落ち込んでしまっていた。

「ああ、もう! こんなの雄大さんに言っても困っちゃうだろうし、迷惑になるだけじゃない!」

 自らを鼓舞するようにぺしぺしと頬を叩いた。

 もうすぐ彼が帰って来るのに、辛気臭い顔を見せられない。いい旦那さまには、素敵な笑顔のかわいい奥さんが必要なのだ。

 笑顔にしよう、笑顔でいよう、笑顔になるのだ。

 自己暗示をかけるよう、しつこいくらいになんども繰り返していると、廊下の方で物音がした。

 毎日繰り返していれば自然と体が動く。

 いそいそとドアに近付くとタイミングよくリビングのドアが開いた。
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