擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
頑張ってかけた自己暗示の成果あって自然な笑顔になれた亜里沙に、彼の微笑みが返ってくる。
「おかえりなさい。お仕事お疲れさまです」
「ん、ただいま。亜里沙もお疲れさま」
エプロン姿で出迎えると、彼からもねぎらいの言葉をもらえるのだ。
お互い仕事を持っているがゆえのこのやり取りはすでに習慣化しつつある。
「亜里沙、今困ってることはない?」
「……え?」
突然の問いかけに亜里沙の目が泳いだ。
──彼は知ってるの? 今日のことなのに、どうして?
「亜里沙、俺の目を見て」
両腕を捕らわれて彼と向き合うように促されれば、目をそらすことも難しい。
おずおずと顔をあげると彼と視線がぶつかった。
「なんでも話してほしい」
「……いつ、分かったの?」
「きみが〝おかえりなさい〟と言った瞬間」
──え、そのひと言だけで?
「亜里沙は嘘がつけないから、すぐに分かるよ。笑顔がいつもと違っていたし、声も沈んでいた」
そのうえ、すぐに目をそらしてしまったのが決定的だったようだ。
「さあ、話して?」
──彼には敵わないみたい。
亜里沙は彼らの名前を出すことはせず、頼みごとがあった事実を話して聞かせた。自分がどうするつもりであるかも、その懸念事項も、全部。
そうすると彼は小さな舌打ちをした。
「それは俺のせいだ。古い部分の改善を始めたから、戸惑ってるんだな」