擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 彼の語気と表情には熱い思いがこもってて、とても迫力がある。

「そうだ! 俺から訊きに行くと言う手もあるな。誰に言われた?」

「え、それは……秘密でお願い」

 熱意のこもった目で見つめられると、頼まれた案件が、社長に言うほどでもないような些細なことに思えてしまって、彼につながなくてよかったと心底思う。

 ──いろいろ不安になったけれど、断って正解だったのだ。

 安心したせいか、笑みが込み上げてくる。

 クスクス笑っていると、一瞬呆けた様子の彼がポンと亜里沙の頭をなでた。

「その笑顔が、亜里沙だよ」

 乗せられた手のひらから彼の心が伝わってくる。

「ありがとう……」

 彼は本当に一本気で、そして一途な人なのだ。

 これから頼みごとをされたら『社長は熱意ある直談判を待っている』と伝えようと決めた。



 社長の考えを伝えると、亜里沙のところに頼みごとを持ってくる人はいなくなった。

 懸念された陰口なども今のところは聞こえてこない。

 一泊二日の忘年会は総務課の女史が直談判に向かうもすぐに却下されたそうで、悲壮な顔つきで『敵は噂にたがわず冷たくて手強いわ。お願い、懐柔する手段を教えて!』という相談をされたのだった。

 でもそれに対して亜里沙は『分かりません』と言って苦笑するしかない。

 お茶くみの件はどうなったのか、佐々木と有田が動いた様子はなく、当番制がそのまま継続されている。
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