擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
案外ほかの女子社員から反対をされたのかもしれない。理由はきっと亜里沙と同じだ。
「失礼いたします。こちらの机を拭いてもよろしいかしら?」
経費申請書と領収書の照合に集中していた亜里沙は、不意にかけられた声に驚いてハッと顔を上げた。
白い作業着に白い三角巾は掃除のおばちゃんだ。大きなマスクの上にあるくっきり大きな目は亜里沙の顔をじっと見つめている。
──いつもと違う人だ。
綺麗に塗られたシャドーと長い睫毛が印象的で、マスクに隠れていない肌は白くて張りがある。
ふんわり漂うフローラルな香りはブランドの香水みたいに上品で、三角巾から零れた髪は滑らかでとても綺麗な感じだ。
──ひょっとして〝おばちゃん〟と言うほどの年齢じゃなくて、結構若いのかな?
「あなた、見惚れてらっしゃらないで、どうするか早くお決めになって。ほかの机もありますのよ?」
「あ、はい! すみません、今片づけますので! お願いします」
──見惚れるって……自分にはあんまり使わないよね……? 少し風変わりな人なのかも。というか自信過剰ともいう?
なんて思いつつ、急いで書類と領収書を退けてスペースを開けた。
雑巾を操る白くて綺麗な手の甲はシミもほくろもなく、それから伸びる指はとてもしなやかで美しい。亜里沙の目をくぎ付けにした。