擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
そう、ここは彼との出会いの場であるリゾート地。
擬似結婚を終了して本当の夫婦になったのを記念して、新婚旅行ならぬ記念旅行にやってきたのだ。
前は暑い盛りだったけれど、今は北風がビュービュー吹く冬真っ盛りだ。月日が経ったなあと思えば感慨深い。
部屋も以前と同じところを取ってくれて、窓からは、はるか向こうにある民宿の『小浜館』が見える。
「女将さん元気かな」
小さくて古びた建物をじっと見つめていると、彼が隣に来てそっと肩を抱き寄せてくれる。
「今度ここに来る時は、小浜館に宿泊しようか。俺も女将さんにあいさつをしたい。亜里沙が消えた後に住所を聞きに行ったとき、女将さんには随分訝し気に見られたから」
そう言って彼は苦笑いをするから、亜里沙はクスッと笑みを零した。
「あの時はごめんなさい。雄大さんがすごくセレブだったから、釣り合わないと思って逃げ出しちゃったの」
今でも釣り合っていないと思うことがある。
それでも擬似結婚をして彼との距離を縮めたおかげで、引け目を感じることがなくなった。
それはとても大きな進歩で、今では自信を持って〝香坂の妻です〟と言える。
「亜里沙、散歩に行こう。寒いからマフラーしっかり巻いて。風邪を引かないように」
彼が亜里沙の首もとにぐるぐるとマフラーを巻いてくれる。もこもこになった亜里沙はお返しに彼の首にも同じようにぐるぐるに巻いてあげた。