擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 一心不乱に願い一礼して終えると、彼はまだ祈願中のようだった。

 そっと見上げると、手を合わせて目を瞑っている横顔はとても真剣で、見惚れてしまうような清廉さがある。

 仕事のご縁を願っているのかな。

 八年もの間、休暇も取らずに過ごしてきた人だ。願うことも仕事関係のことなのだろうか。亜里沙のような恋愛脳ではないのだ。

 ──ん? そうしたら、彼女はいないかもしれない?

 ひょっとしたら、恋愛に興味が無いとか……。

 彼が一礼して終えると、亜里沙に微笑みかけてくる。そして彼女にそうするように、ごく自然に手をつないできた。

 ──まだ坂道じゃないのに、もうつなぐの?

 ドキッとして見上げると、いたずらが成功したようにニッと笑った。そして亜里沙に文句を言わせないとばかりに、すぐに問いかけてくる。

「次はどこに連れて行ってくれる?」

「あ、えっと、そうですね……」

 亜里沙のプレゼンで観光案内をしているのだけど、このままでは彼のペースに飲み込まれそうだ。

 天然のリーダーの素質で、いつのまにかリードされている

 昨日見せてくれたスマートさもそうだったけれど、おそらくきっと、いや絶対に、仕事においても有能な人なのだ。

 それに昨日から亜里沙ばかりがドキドキさせられて、彼は余裕。

 そんなすました笑顔とは違う彼の表情を見たい。

「……少し、怖いところに行きましょうか」

「怖いところ?」

「はい」

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