擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
ちらりと横を見れば彼も声を出さないように手のひらで押しとどめていたようで……、鳥の羽ばたきには、お互い相当に驚いたみたいだ。
──ちょっと、刺激的過ぎたかなあ。
そんな反省をしつつも、目論見が成功した気がして、つい楽しさが込み上げる。
間もなく行く先に明るいところが見えてきた。目的地である。
そこに数人の観光客の姿が見えると、握っている彼の手が緩んで小さな息を吐いたのが聞こえてきた。
彼がもう喋ってもいい? と尋ねるように指先を唇にあてがうので、亜里沙は笑ってうなずいてみせた。
「さっきは危なかった。つい声が出そうになったから、俺必死で押えて……でもまさか、ホラー的な意味の怖いところとは、思ってなかった」
気が抜けたように言って渋い表情をする。
言い伝えを守るところはとても素直。そして恐ろし気な雰囲気にのまれるところは、すごくかわいい。
自分よりも年上の男性に対してこんなふうに思うなんて、亜里沙にとってはじめてのことである。
「そうですよね、さっきの鳥には、私もびっくりしました」
さっきの状況を思い出すと笑いがこぼれる。
だって彼を驚かすのが目的だったのに、亜里沙もすごくびっくりしたのだから、想定外だったことがおかしくて。
我慢できずに声を立てて笑う亜里沙を見て、彼もつられて笑いだした。
ふたりしてひとしきり笑った後、彼は前方に目を向けた。