擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 そう尋ねる勇気も出ず、旅の解放感も手伝ってそのまま彼に手を委ねている。

 でもそれが嫌ではなくて心地よささえ感じてしまうのは、何故なんだろう。

 そんな感情を抱きながら散策して、途中にある焼き物工房を見学する。直営ショップにある焼き物を物色すると、彼はお高い茶器などを数種購入した。

 亜里沙が焼き物アクセサリーに興味を持って眺めていると、そのうちのひとつを手に取って「記念にプレゼントするよ」などとあっさり言うから、丁重にお断りした。

 楽しい時間は瞬く間に過ぎて行く。お散歩コースの最終目的地である海の灯台まで来ると、まもなく陽が沈む時間になっていた。

 日の入りに合わせて来た人たちが、続々と灯台のまわりに集まって来る。人の波に流されそうになった亜里沙はぐいっと彼の方に引き寄せられた。

「俺から離れるな」

 握られていた手が離され、亜里沙の腰に添えられる。

『離れるな』なんて命令形の言葉だけれど、亜里沙の体を庇うように回された腕はとても優しい。

 彼の体に密着してしまうと、汗のにおいと身に着けたムスクの香りがかすかに鼻をくすぐる。

 彼の心臓の音と海岸に打ち寄せる波の音、ときおり肌をかすめる潮風が、今この時を特別なものに変えていた。

 今日一日一緒にいてすっと繋がれたままだった手は、彼のあたたかさがなくなるととても寂しく思えて……。
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