擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

「先輩も焦ってるんですか? 全然そんなふうに見えませんけど」

 他人事のように淡々と話す彼からは焦燥が伝わって来ず、亜里沙は軽い気持ちで尋ねた。

 彼に冷徹社長だと言われても、ちっともピンとこない。

「ま一応ね。必要ないと分かれば、古い付き合いでもすっぱり切り捨てるようなお方だって言うから、無駄な業務をしていると思われたら即行切られるだろ。つーか、究極にはYOTUBA自体要らないって言うかもな」

 会社が切り捨てられることなどあり得ない、とも言いきれない。

 YOTUBAの取引先は主に四つ葉グループ内の企業だ。

 グループ以外から受ける仕事は全体の二十パーセント程度しかない。

 その業務内容であれば、各企業内にIT部門を置けば済むような……。

 だからいつも日和見しているような経理課長も焦っているのだ。会社がなくなったら困るから。

 ようやく事態が飲み込めて、亜里沙は喉が詰まるような思いがした。

 恵梨香のようなWEBデザイナーならばまだしも、経理業務担当の亜里沙はYOTUBAがなくなることは、職を失うことにつながる。

 買い手市場と言われた亜里沙の時代は、それはもう就職難だった。
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