擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「え?」
一瞬なにを言われたのか理解できず、ぽかんと口を開けてしまった。
少し息を切らし青ざめた顔色の課長と、ついで恵梨香の「亜里沙なにをやったの」と言わんばかりの表情が目に入り、背中にじわっと汗が滲んだ。
「私が……呼ばれたんですか?」
「そうだ。早く来なさい」
「課長、私、なにか重大なミスしたんでしょうか?」
「そ、そんな筈はないと思う……それに、YOTUBAは健全経理な筈だが……」
経理課長は亜里沙と視線を合わせず、目を泳がせている。
その言葉と態度から、亜里沙の頭には『横領』という言葉が浮かんだ。
──まさか!
ムンクの叫びのように頬を両手で押えた。
「横領かよ……」
誰かがぼそっと呟いた声がやけに大きく聞こえてきた。
経理と横領という言葉は密接な関係にあるが、亜里沙はそんな悪事を思い付くほどお金に困っていない。
身に覚えがないことなれど、ほかに亜里沙が呼ばれるような理由が思いつかないから動揺してしまう。
これでは余計に疑惑の目を向けられるだろう。
案の定、恵梨香たちがなんとも複雑な表情で亜里沙を見ているから、背中に嫌な震えが走った。
「違う、違うから!」
言いながら、身の潔白をアピールするように両手をぶんぶんと振って見せる。
こんなの冗談ではない。
「もしかして、疑われているんでしょうか? 私、潔白の、健全ですよ?」