擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「そう、香坂雄大だ。苗字は憶えていてくれたんだ」
「それはその、たしかフルネームは聞いてなかったような?」
彼の抱擁が緩み、しばし考えるような気配を見せた後、呟くように言った。
「そういえば、そうだったな。訊かれなかったから、言ってなかった」
フルネームを名乗る必要のない時は、訊かれない限り自分から言うことはないという。
とくに女性に対しては、苗字も言わないことがあると。セレブな上、非常にモテるが故の自衛であるらしい。
まあ亜里沙も、誰に対しても自分からどんどんフルネームを教えることは、ないのだけれど。
そんなことを考えているうちに、亜里沙は社長室内のソファに座らされていた。彼が隣に腰を下ろし、亜里沙の肩を抱き寄せてくる。
「きみを探し出すのに、二か月もかかるとは思ってなかった。それにYOTUBAの社員だったとは……体だけじゃなく、運命でも繋がったと確信したよ」
──つ、繋がったって……。
亜里沙は火照る顔を隠し、焦りながら問いかける言葉を探した。
もう二度と会うことはないと思っていたのに、まさかYOTUBAの社長だったとは。
しかもコウサカが香坂と書くなんて意外である。
あのときの亜里沙の頭の中で彼は高坂だったのだから、混乱するばかりだ。
「二ヶ月も、探してくれたんですか」