擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「あの朝きみがいないと気づいたときは少し動揺したけど、小浜館という手掛かりがあったし、すぐに見つかると思ってたんだ。でも個人情報保護法という壁がどうにも厚くて……結局、その道のプロに頼んで探してもらった。それで、きっかり二ヶ月」
──そこまでして、私を?
自分で言うのもなんだが、河村亜里沙なんて特技がひとつもなく凡庸で特徴がない。彼が追い求めるような素敵な女性じゃないのに、困惑するばかりだ。
旅先の非日常的なフィルターがかかって、実際よりとんでもなくいい女に思えているんじゃないだろうか。
「今日は亜里沙を攫いにきた。きみを完全に俺のものにするよ」
「は? それは、どういうことですか」
「あの朝みたいに逃がさないってことだけど……ああ、ごめん。その前に、そろそろ客が来るな。亜里沙も同席してくれ」
「はい?」
亜里沙が尋ね返したのと同時に、デスクに置いてある内線が鳴った。
YOTUBAはワンフロアで収まるほどの社員しかいないため、七階建てオフィスビルの三階部分のみを使用している。
社長室、副社長室、応接室があり、後は一般社員が仕事をする部屋が三つと会議室があるのみだ。
専用の社員食堂がないため、ランチはビル内にある食堂で食べるか、デスクでお弁当を食べる。
そんな狭い社内だけれど社長室は一番奥まったところにあるから、彼とともに応接室に向かう途中の廊下では社員に会うことがなかった。