擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
電話が入って仕事に戻った彼と別れ、部署に戻った亜里沙を襲ったのは、同僚たちからの好奇の視線だった。
ヒソヒソ話す声に『横領』や『クビ』という言葉が混じっているのが聞き取れる。冷たい目を向けてくる人さえいた。
亜里沙が社長に呼ばれて、あれこれびっくり仰天な展開に陥っている間に、時計の針はサクサク進んで終業間際の時刻を示している。
これだけの時間を社長と一緒に過ごしていたとなれば、横領疑惑も、あらぬ妄想までも膨らむのが一般的である。
──この誤解をどうやって解けばいいの?
仕事を言いつけられたとか、お使いを頼まれたとか。咄嗟に浮かぶ理由はどれも無理があって、なんだか言い訳がましい。
せめて誰かが話しかけてくれれば、それを糸口に話ができるのに、恵梨香さえも複雑な表情で亜里沙を見つめるばかりだ。
またも降りかかる難題に亜里沙は頭痛がしそうになった。
戻る前に彼と打ち合わせをしておけばよかった。
というよりも、彼が直接みんなに話して誤解を解いてくれればよいのでは……?
忙しそうではあったが、ほんの数分時間を割いてもらえれば済むことだ。お願いしてみよう。そうだ、そうしよう。
亜里沙がもう一度社長室に向かおうとした、そのとき──女子社員の間から小さな歓声が上がった。