擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
ねめつけるようだった同僚たちの目が大きく見開かれて、亜里沙の頭のてっぺんあたりに釘付けになっている。
──え?
振り仰いでみると、彼の端整な顔が亜里沙の頭上にあった。
「香坂さん……」
亜里沙が呼びに行かなくても来てくれた。
そんな驚きと喜びで呆けたように言つめていると。彼の唇が僅かに動いた。
「亜里沙、ここは俺に任せて」
亜里沙だけに聞こえる声音で言われて、ホッと肩の力が抜ける。
疑惑を向けられていることは話してないけれど、彼は、自分がなにをするべきか分かっているように思えた。すべてお任せすればいいのだ。そんな頼もしさを感じる。
「誰?」など疑問を口にしてにわかにざわつく室内で、彼のよくとおる声が響いた。
「私は社長の香坂雄大だ」
その一言で席に座っていた社員たちはいっせいに立ち上がり、びしっと姿勢を正した。
背後にいる彼の手のひらが亜里沙の両肩に乗せられたので、みんなの視線が再び亜里沙へと戻った。
「今から重大な発表をする」
このひと言でみんなの視線がサッと移動し、亜里沙の頭上に集中した。
水を打ったように静まった室内には、身動き一つすることも憚れる空気が流れている。
朝の慌ただしさ。あの流れから考えれば、みんなの胸中にはYOTUBAに関すること……つまり会社の行く末が浮かんでいるに違いない。
経営統合か、清算か。