擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 午後七時半を回り、亜里沙はオフィスビルから離れた静かな町にやってきた。彼の運転する車が車幅ほどの細い路地に入っていく。

 両側に建物はあるけれど入口がなく、壁ばかりが続いている。

 ──ほんとうにこの先にお店があるの?

 そう心配するほどの狭い道を走り、たどり着いた最奥には民家を模したレストランがひっそり佇んでいた。

 大きな看板もなく、門にかけられた小さな表札が、唯一この建物がなにであるかと示している。

「『あずまや』……なんだか秘密の場所みたいなところですね。わくわくします」

「気に入った?」

「はい、とても」

「やっぱりな。亜里沙はこういうところが好みだと思って。正解したな」

 彼は狙いがあたったことが嬉しいようで、満足げに笑った。

「どうして分かったんですか?」

「きみの観光案内のチョイスから。古いものとか特別なことが好きそうだなって」

「……あたってます」

「まあここは俺の趣味でもあるんだけど。ありていに言えば、俺たちはすごく気が合うと思うんだ。行こう。きっと中身も気に入るよ」

 ごく自然に腰に手が回り、店に入るように促される。

 入り口から入れば、スタッフが笑顔で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれるのは、どこのお店も一緒だけれど、このレストランは違っていた。

 入り口の中にさらにドアがある。入場ゲートみたいな囲いがあり、まるきり店内が見えない。
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