擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
名前などの明言を避けるところが、このお店の機密性を物語っている。
このレストランでは、おいしい食事だけでなく、誰の目にも憚らず楽しめる時間を売っているのだ。
店員から渡されたメニューには値段の記載がなく、横文字ばかりが並んでいた。亜里沙にはさっぱり分からず、例のごとく彼にオーダーをお任せした。
亜里沙の食べたいものを確認しながら、手慣れた様子でさくさく注文してくれる。すごく頼もしい。
できないことを小馬鹿にするような人もいるけれど、彼はそんなことをしない。
それに自慢げにすることもない。そんなところも素敵だ。
──香坂さんは、人目を忍ぶような恋をしたこと、あるのかな。
大学を卒業してからは仕事ばかりだと言っていたけれど、恋をする時間はそれなりにあったのかもしれない。
「あの、よかったんですか? あんなふうに発表しても。香坂さんのご両親の許可もいただいてませんし、私の方は、その……」
「俺の両親はずっと海外で生活をしているんだ。そのせいかおおらかで、結婚については、俺の自由にしていいと言われているよ。今度紹介するよ。亜里沙のご両親のところには、近いうちにごあいさつに行こう」
「あ、私の両親はいつでも暇ですけど、多分とっても驚くと思います」
両親の顔を思い浮かべて苦笑した。
実家に帰るたびに『はやく彼氏を連れてきなさいよ!』って言われているのだ。きっと喜ぶに違いない。