擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 ──けれど、お相手が四つ葉グループの御曹司だと知ったら、どう思うかな。自分でも信じられなくて、まだ戸惑っているのに。

 こんな状態でお互いの両親に紹介しあうのは、早計かもしれない。

「香坂さん」

 名を呼びつつ顔をあげると、彼は二つ向こうにあるテーブルに目を向けていた。メガネをかけた少しくせのある髪の男性と、ウェーブのある長い髪の女性がワインと料理を楽しんでいる。

 ──ふたりとも、彼と同じくらいの歳に見える。知り合いなのかな?

 むやみやたらに話しかけない暗黙のルール。ごくごく親しい人ならば別なのだろうけど、彼が少し厳しい顔つきに見えるのは、気のせいだろうか。

 ──まさか、元カノだったりする?

 もう一度彼の名を呼ぶとこちらを向いた。いつもと変わらない表情で……険しい顔に見えたのは、照明の角度のせいかもしれない。

「よそ見しててごめん。知り合いがいたんだ」

「知り合い?」

「イベント会社の女社長。結構なやり手で、見つかると厄介な人なんだ」

「……そうなんですか」

 顔つきが違って見えたのは気のせいではなかった。

 彼の渋い口調から思うに、どう厄介なのかは、訊かない方が無難のようで。さらっと相づちを打って受け流し、先ほど提案しようとしていたことを口にした。
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