擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「ううん、体は平気なの」
「それなら心の問題だな」
亜里沙の手の中から、半分ほど中身が残っているカップを取って、ダイニングテーブルの上に置いた。椅子に座るよう誘導してくる。
「なんでも話してくれ。亜里沙は俺の大切な人なんだから、決して邪険にしないよ」
椅子に座る亜里沙の前で目線を合わせるように跪いた彼は、膝の上に置かれている手を包み込むように握った。
見つめてくる瞳と重ねられた手のひらから感じるのは、彼のおおらかさだ。
社長として厳しく振舞うことはあっても、やっぱり本質は優しいのか。リゾート地で過ごしていたときの彼の姿が一番素に近いのかもしれない。
──それなら話してみても、いいかな……。
彼の意のままに流されて擬似夫婦をすることになったけれど、ここから先は、流されずにしっかり亜里沙の気持ちを伝えていくべきかもしれない。
「実は、一緒に住むうちに、雄大さんが私にがっかりするんじゃないかって、不安になったの。お料理もそれほど得意じゃないし、掃除も適当にしちゃうから」
生活レベルの違いからも戸惑っていることを告白すると、彼は「それは問題だな」と言って眉をひそめた。
やっぱり彼は、何事も完璧にできる女性を求めているのだ。亜里沙のできることは非常に少なくて、彼の理想とはかけ離れている。