擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

「で、なんか面白エピソードない? もう一緒に住んでるんでしょ?」

「う~ん、おもしろいっていうか……実はこんなことがあったのだけど」

 亜里沙は朝食で起きたことを恵梨香に話し、そして問いかけた。

「恵梨香はどっち?」

「私はどっちでもないよ。塩コショウ派だもん」

 しょうゆとソース以外の選択肢に、亜里沙は「あ~」と声をあげた。

 なんの話かといえば『ハムエッグにはなにをかけて食べるか』である。

 亜里沙はしょうゆ、彼はソースで、双方こちらの方が絶対に美味しいと、プチ争いになったのだった。

 時間にして三分も争ってはいなかったけれど、『お互い、なんでこんなにこだわっているんだ?』って、彼がさもおかしそうに笑いだした。

 それがすごく楽しそうで、おまけに何故だかとってもうれしそうで。

 こんな笑い方をするんだ……なんて、リゾート地ではすました笑顔が多かっただけにとても新鮮だった。

 その表情に見惚れているうちに、つられて可笑しくなって、亜里沙も声を立てて笑ったのだった。

 結局、各々好みの調味料をかけて、争いはおしまい。

 最終的には『きみとなら、こんな言い争いも楽しいな』なんて甘い言葉を掛けられて、ふにゃあっととろけてしまった。

「恵梨香は塩コショウか~。無難だね」

 それでも、しょうゆが一番おいしいと思うのは、黙っておく。
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