擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

「各家庭の食文化の違いってさ、同居生活の永遠のテーマだよね。地域差もあるし。私も今直面してるとこだよ。彼のためにご飯作れるのは、うれしいんだけど」

 恵梨香ははぁ~っと大きなため息を吐いた。ついさきほどまでの笑顔が消えうせて、いつになく落ち込んでいるように見える。

 彼女の恋人は、営業部一のイケメン男性で、並み居るライバルを制して付き合い始めてからまだ間もない。

 もうお食事を作る仲になったのだ。早いなあと考えて、自分はそれ以上の電光石火の早さだったことを思い出して苦笑した。

 彼のことを好きだけれど、やはり流され過ぎかもしれない。自分の意見をしっかり持とうと決めた。

「それで、なんかあったの?」

「うん。土曜の夜にね、彼が茶わん蒸し食べたいって言ったから作ったの。そしたら、これは茶わん蒸しじゃないって、ちょっと不機嫌になったの」

「どんなの作ったの? まさか……どんぶりで作ったから、これは茶わんじゃない、どんぶり蒸しだ! とか?」

 亜里沙のジョーク交じりの問いかけに、恵梨香はプッと噴き出した。

「違う、違う、具と味の問題なの。彼ったら、砂糖と栗の甘露煮が入ってないから駄目だって言うの。銀杏ならともかく、栗の甘露煮だよ? それに砂糖入れちゃったら具入りののプリンじゃない。もうびっくりしちゃって」

 砂糖を入れるなど、亜里沙とて初耳だ。

 ──でも、意外においしいのかも?
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