擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 味を想像すれば有りだと思ったことは、恵梨香には内緒だ。

「甘い茶わん蒸しかあ。たしかにびっくりだよね……彼ってどこ出身だっけ?」

「東北方面。あっちでは、茶わん蒸しにお砂糖入れるところがあるみたい」

 恵梨香は言いながらスマホで検索した画面を亜里沙の方に向けた。

 そこには茶わん蒸しの種類が載っている。うどんを入れるところ、春雨をいれるところ、豆腐を入れるところ……多種多様だ。

「東北とか北の方は、基本的に甘いらしいの。赤飯も甘納豆を使うって。彼の好みに合わせたいけど、正直キビシイよ。お味噌汁も違うんだ」

 亜里沙にしてみれは砂糖入りの茶わん蒸しでも、おいしければ構わないと思う。けれど、恵梨香はどうにも受け入れられないらしい。

 彼女が直面した出来事に比べれば、亜里沙がかるい衝撃を受けた卵にかける調味料の違いなど、まことに些細なことに思える。

「砂糖入りと、普通のと、分けて作るしかないかなあ。でも彼もこちらの生活が長いんだから、もう、こっちの味に慣れてるよね?」

「最初にこっちの茶わん蒸しを食べたときは、すごいショック受けたんだって。食べるもの見るものすべてがカルチャーショック。だからこそ、手料理にはワガママが出ちゃうみたい。俺好みのものを食べたいな~って、好きな人から──結婚したい人に甘えられると、やっぱり弱いよね……」

 恵梨香は再びため息を吐く。
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