擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
たんに食材の好き嫌いではなく、育ってきた環境による文化の違いは深刻かもしれない。
問題は茶わん蒸しだけではないだろうから、どちらに合わせるかが難しい。
──雄大さんはどうかな……あまり違わないといいけれど。
「その点亜里沙は、食の好みが合うって話だからいいよね。違うって言っても、〝しょうゆとソース〟だし?」
恵梨香は恨めし気な目をして、チロリと亜里沙を見た。
「う……お子さまみたいなエピ話して、ほんとごめん。でも地域的な差はなくても、生活レベルの差はあるから……それは恵梨香だって戸惑うでしょ!」
これなら恵梨香も共感してくれる! と勢い込んで言ったら、彼女はストローを口に含みながらしれっと言った。
「NO。私には、それも些細なことに思えるよ。だって、簡単に言えば食材のグレードが違うってだけでしょ? 豚肉が霜降り和牛だったり、インスタント珈琲が最高級の珈琲豆だったり」
「う、ぐ……まさに……その、通りです」
この土日の出来事全部を見られていたかのような正確な指摘だ。亜里沙はぐうの音も出ない。
「それに亜里沙ってば、すっごく愛されてるじゃない。香坂社長の方が、いろいろ合わせてくれるよ。そのうちハムエッグもしょうゆで食べてくれるかも」
「え、そうかな?」
亜里沙は少し首を傾げた。
ソースで味わうことのおいしさを力説していた彼の様子からは、とてもそんなふうに思えない。